名古屋地方裁判所 昭和53年(ワ)213号 判決 1988年5月27日
原告
水越宏
右訴訟代理人弁護士
石原金三
同
平野純吉
同
塩見渉
右訴訟復代理人弁護士
花村淑郁
右輔佐人弁理士
楠本恵基
被告
林フィラー株式会社
右代表者代表取締役
林喜夫
右訴訟代理人弁護士
出倉整
同
平山雅也
右訴訟復代理人弁護士
内藤義三
右輔佐人弁理士
旦六郎治
同
森武章
同
旦範之
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し、金一億八〇〇〇万円及びこれに対する昭和五七年二月一七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)の権利者である。
特許登録番号 第八四一一五九号
発明の名称 光電式緯糸探知装置
出願日(出願番号) 昭和三七年一一月二九日(特願昭三七―五三四一〇)
公告日(公告番号) 昭和四二年二月一六日(特公昭四二―三七〇四)
登録日 昭和五二年一月二〇日
特許請求の範囲
「シャットルの通路を介してラムプと相対して設置した単一光電素子よりなる透過光式緯糸探知装置においてシャットルの通過により、上記単一光電素子に発生する電流変化を微分回路等の波形変換回路に接続して得られる信号によりワンショットマルチ回路等の信号幅延長回路を含むゲート回路により一定時間増幅器を動作可能状態となし、この一定時間内に発生する電流変化により制御信号を得るようにしたことを特徴とする光電式緯糸探知装置。」
2 本件発明の目的
ラムプ(投光器)と受光器を用いた光電装置によって織機におけるシャットルの緯糸減少を探知する技術思想(光電式緯糸探知装置)は公知である。しかしながら、従来の光電式緯糸探知装置には次の欠点が存した。
(一) 反射光を受光する方式(反射光式)の場合には、反射物体の劣化あるいは汚染等により反射率が低下したり、使用する原糸の色相・光沢等により誤動作を生ずることがあり、装置として安定性に欠ける。
(二) 透過光を受光する方式(透過光式)の場合には、シャットル通過時のみ探知可能な状態とするために機械的シャッターや電気的スイッチあるいは光学的フィルター等の補助機構を必要とし、これを織機の回転と同期して作動させなければならず、その取扱いや調整に費用や手数を要する。
本件発明は、これらの欠点を解消することを目的とした発明である。
3 本件発明の特徴
(一) 構成要件(本件発明の構成上の特徴)
(1) シャットルの通路を介してラムプと受光器を相対して設置する透過光式であること。
(2) 受光器は単一光電素子であること。
(3) シャットルの通過により、右単一光電素子に電流変化を発生させること。
(4) 右電流変化を微分回路等の波形変換回路に接続して、もとの波形と異なる波形の電気信号を得ること。
(5) 右電気信号により、ワンショットマルチ回路等の信号幅延長回路を含むゲート回路を動作すること。
(6) 右ゲート回路により、一定時間増幅器を動作可能状態とすること。
(7) 右一定時間内に受光器に電流変化を生じたとき、この変化信号を増幅して制御信号を得ること。
以上を特徴とする光電式緯糸探知装置である。
(二) 構成要件に関する各項の説明
(1) 「シャットルの通路を介してラムプと受光器を相対して設置する透過光式であること。」について
別紙特許公報(以下、「公報」という。)第1図及び第2図に示すように、ラムプ1と光電素子2(受光器)を、シャットルの通路3(レース)をはさんで相対して設置する。シャットル4及び内蔵物(木管トング)には、緯糸が減少あるいは無くなったときに光が通過し得る貫孔5を設ける。
織機運転中のシャットルは、ラムプと受光器の間を一秒間に二ないし四回飛走して通過する。シャットルが通過するごとに受光器に照射するラムプからの光は、断続して明暗を繰り返す。
緯糸が十分巻かれているシャットルが通過するときは、受光器が受ける光はシャットルが通過する間遮断される。
緯糸が減少し、あるいは無くなったシャットルが通過するときは、木管トングに設けた貫孔を通過した光も受光器に入光する。
(2) 「受光器は単一光電素子であること。」について
複数の受光器を用いた緯糸探知装置は公知である。複数の受光器を用いる理由は、受光器群のうち一つの受光器を緯糸減少に伴う透過光の受光用として使用し、外の一つあるいは二つ以上の受光器をシャットル通過のタイミング検知用として使用するからである。
実装面で考えれば、後記のとおり、受光器がただ一個であることのメリットは大きい。
(3) 「シャットルの通過により、右単一光電素子に電流変化を発生させること。」について
単一光電素子からなる受光器にラムプからの光が入光すると、受光器には光電効果による電流(電圧)が発生する。シャットル通過によって、受光器に照射される光が断続すると、受光器に発生する電流(電圧)変化は、公報第3図(A)、(B)((A)はシャットルに緯糸がある場合、(B)はシャットルに緯糸が減少し又は無い場合。以下、公報第3ないし第7図において、特に限定しない場合は、両者を含むものとする。)のような波形になる。
公報第3図において、t1、t2((A)の場合)あるいはt1、x1、x2、t2((B)の場合)の各時点における光電信号の波形(以下、上記各時点における光電信号そのもの又はその波形をも、便宜、「t1、x1、x2、t2」ということがある。)にみられるように、シャットルが通過するごとに受光器に発生する電流(電圧)は急激に変化する。
本件発明では、この電流変化が緯糸減少探知のための貴重な情報源であり、探知回路設計のための基本的な信号となる。
(4) 「右電流変化を微分回路等の波形変換回路に接続して、もとの波形と異なる波形の電気信号を得ること。」について
光電素子に発生する電流(電圧)は、まず、適当な増幅器によって増幅した後に、制御信号を得るための第一段階として波形変換を行う。電子回路において、波形を変換する方法には、コンデンサC、抵抗R、トランジスタTr、ダイオード等の組合せにより数多くの方法があるが、本件公報実施例では、もっとも一般的なコンデンサCと抵抗RによるCR微分回路を想定して例示してある。
公報第4図には、受光器に発生する電流変化の信号をCR微分回路で波形変換した波形t1、x1、x2、t2が示されている。
電流波形の変化の方向がプラス方向かマイナス方向かによって、出力波形の方向が異なる。図面上方を仮にプラスとすれば、t1とx2はマイナス方向の電流変化の微分波形、x1とt2はプラス方向の電流変化の微分波形である。
(5) 「右電気信号により、ワンショットマルチ回路等の信号幅延長回路を含むゲート回路を動作させること。」について
緯糸の無いシャットルが通過するときの電流変化は、公報第3図(B)、第4図(B)に示すように、t1、x1、x2、t2の四か所であるが、いま、第一回目のプラス方向の電流変化x1を電子回路に記憶させることとする。この電流変化x1を記憶させておく時間は、シャットルの通過に伴う次の電流変化を検知し得るまでの時間でよい。次の電流変化とは、この場合マイナス方向のx2とプラス方向のt2の二つがあり、記憶した電流変化x1から次の電流変化x2までの時間は一〇〇〇分の三秒程度、x1から次の電流変化t2までの時間は一〇〇〇分の一五秒程度であるから、そのどちらの電流変化を検知して制御信号とするかによって、記憶させておく時間の長さを決めればよい。
公報の実施例では、t2を検知することとし、それに十分な時間を信号波形に示してある。
ところで、電流変化x1を一定時間記憶させるためには、まず、一定時間だけ動作する電子回路(タイムスイッチ)を構成する。電子回路でタイムスイッチを作るもっとも簡単な方法は、コンデンサCと抵抗Rを組み合わせ、その充放電特性を利用したCRタイマー回路を作ればよいのである。コンデンサCの容量の大きさと、抵抗Rの抵抗値の大きさを選定すれば、微小時間だけ動作するものから数時間にわたって動作するものまで、タイムスイッチの製作は容易である。
コンデンサCと抵抗Rに、増幅用のトランジスタを組み合わせてワンショットマルチ回路のような時間回路を作れば、そのワンショットマルチ回路をトリガー(起動)した元の入力信号の電位がその後短時間に反対方向に変化したとしても、一たんトリガーしてしまえば、あとは所定の時間長だけ安定して動作を続けることができる。
単なるコンデンサCと抵抗Rの組合せである微分回路のようなCR回路であっても、コンデンサCに充電した電荷が電流変化x1の時点から抵抗Rを通じて放電を開始し、その放電が完全に終了するまでの時間を巧みに利用すれば、時間回路として十分に役に立つ。つまり、電流変化という信号があったことが、CRタイムスイッチの動作完了までその信号幅だけ延長されたことになる。
このようにして、電流変化という信号を、適当な波形変換回路で一定時間幅だけ延長する信号幅延長回路によって一定時間記憶しておき、この出力を次段のゲート回路に入力する。ゲート回路には、それに従属する信号増幅用の増幅器を設け、ゲート回路の動作中のみ、その増幅器が増幅機能を持つようにする。
公報第2図の8が信号幅延長回路を含むゲート回路であり、同じく9がゲート回路に従属する増幅器である。
(6) 「右ゲート回路により、一定時間増幅器を動作可能状態となすこと。」について
電流変化x1を起点として一定の時間幅(公報の実施例では、t2までの一〇〇〇分の一五秒程度)だけ動作する前記ゲート回路の働きによって、増幅器を一定時間動作可能状態にする。この増幅器は、x1の次の電流変化、すなわち、マイナス方向の電流変化x2あるいはプラス方向の電流変化t2のいずれかを入力信号とするように設計する。
実施例として示した公報図面は、プラス方向の電流変化t2を入力信号とした波形の信号波形図である。この場合、ゲート波形の動作起点であるx1もプラス方向の電流変化であるから、増幅器が動作可能となるタイミングを、(x1からt2までの時間)+△t(△tは、信号を判別するために十分な微少時間)となるように設計する。
公報第6図は、プラス方向の電流変化t2あるいはx1を起点として、一定時間だけ動作するゲート回路の信号波形図を示している。右のプラス方向の電流変化が発生した直後の一〇〇〇分の二〇秒間位の時間内において、公報第3図、第4図の各(A)(緯糸の十分ある状態)では後続の電流変化は生じていないが、各(B)(緯糸が減少し、あるいは無い状態)ではマイナス方向の電流変化x2と、プラス方向の電流変化t2の二つの信号が生じている。増幅器は、この二つの信号のうちの一つを選択して、増幅するように設計すればよい。
このように、電流変化という信号を一定時間記憶し、ゲート回路を働かせ、その時間幅だけ増幅器を動作可能状態とする技術思想が本件発明の重要なポイントの一つである。
(7) 「右一定時間内に受光器に電流変化を生じたとき、この変化信号を増幅して制御信号を得ること。」について
電流変化x1の時点から一定時間増幅器を動作可能状態にする。その一定時間内に次の電流変化があれば、その信号を増幅して制御信号とする。ここで得た制御信号は微小であるから、公報第7図のように、時間幅を十分引き延ばして継電器等を動作させてシャットル交換機構を制御する。
(三) 本件発明の作用効果
本件発明は、
(1) 透過光式であることにより、従来存在した反射光式が反射物体の汚染等により反射率が低下したり、使用原糸の色相・光沢等により誤動作を生じたりする弊害があったのを防止する効果がある。
(2) 単一光電素子を用いた光電式であることにより、装置の製作費、工事費を大幅に軽減する効果がある。
(3) 透過光式であるにもかかわらず、何らの機械的シャッター、電気的スイッチ、あるいは光学的フィルター等の補助装置なしに緯糸の有無を探知することができるので、その取扱い及び保守が極めて簡単で故障の少ない装置を得ることができる。
4 被告は、本件特許出願公告の日である昭和四二年二月一六日から本件特許権の終了した昭和五七年二月一五日までの一五年間に、別紙イ号物件目録記載の透過光式緯糸探知装置(昭和四四年までがD型、それ以後はF型。以下、それぞれ「D型」、「F型」と、両者を併せて「イ号物件」という。)を少なくとも三〇万台製造、販売した。
5 イ号物件の特徴(以下の説明中、記号については、別紙イ号物件目録添付第一図ないし第三図(D型)、同目録添付第四図ないし第六図(F型)(以下本項においては、「第一図……「第六図」と略称して引用する。)の記載による。)
(一) D型の構成と動作
(1) シャットルの通路を介してラムプと受光器を相対して設置する透過光式である。
(2) 受光器は単一光電素子である。
(3) シャットルの通過により、右単一受光素子に電流変化(D1点の信号)を発生させる。
(4) 右電流変化をトランジスタTr1で増幅したD2点の波形を微分回路(抵抗R14、コンデンサC1、抵抗R2)で波形変換する。波形変換された信号は、トランジスタTr2の、ベースD6点に入力する。第三図のD6点に見られるように、ここではプラス方向の波形のみが表れる。マイナス方向の信号は、トランジスタTr2のエミッタ・ベース間の整流作用によって除去されるからである。
(5) トランジスタTr2は、抵抗R2によって常時オン(動作中)であるが、D6点に入力したプラス方向(受光面の光の暗から明への変化時)の微分信号、すなわち、第三図x1、t2等によりオフ(動作せず)になるため、トランジスタTr2のコレクタから抵抗R8を通じてゲート用トランジスタTr4のベースD4点にTr4動作用の信号が出力される。D4点の右信号は、トランジスタTr2とトランジスタTr3を軸にして構成するワンショットマルチ回路の動作中持続する。その結果、ゲート回路のトランジスタTr4は、ワンショットマルチ回路の動作時間である一〇〇〇分の一〇秒程度オンになる。
(6) ゲート回路のトランジスタTr4が一定時間動作すれば、トランジスタTr4と直列に結合する信号増幅器トランジスタTr5も、その間動作可能状態となるところ常時はトランジスタTr4がオフ状態のためトランジスタTr5のコレクタに電位が与えられず増幅機能を失っているが、右ワンショットマルチ回路の動作によってトランジスタTr4がオンになり、トランジスタTr5も一定時間動作可能状態となる。
(7) ゲート回路のトランジスタTr4の動作時間中(一〇〇〇分の一〇秒程度の間)にD2点にマイナス方向の電流変化(受光面の光の明から暗への変化)があれば、D3点にはコンデンサC2を経て信号増幅用トランジスタTr5の動作用マイナス信号が発生し、Tr5がオンになる。このときトランジスタTr4とトランジスタTr5が同時にオンになって、D5点に制御用探知信号を得る。
トランジスタTr4のオン時間中に発生する次のマイナス方向の電流変化はx2のみである。緯糸がまだ有るときの波形図(第三図A図)では、ゲート回路の動作中にマイナス方向の電流変化はないが、緯糸の無くなったときの波形図(第三図B図)ではD3点にx2(マイナス方向の電流変化)が発生し、それがトランジスタTr5の増幅対象となって所期の目的である制御用探知信号を得る。
(二) F型の構成と動作
(1) シャットルの通路を介してラムプと受光器を相対して設置する透過光式である。
(2) 受光器は単一光電素子である。
(3) シャットルの通過により、右単一受光素子に電流変化(F1点の信号)を発生させる。
(4) 右電流変化をトランジスタTr1で増幅したF2点の波形を微分回路(コンデンサC1、抵抗R2)で波形変換する。波形変換された信号は、トランジスタTr2のベースF6点に入力する。第六図のF6点に見るように、ここではプラス方向の波形のみが表れる。マイナス方向の信号は、トランジスタTr2のエミッタ・ベース間の整流作用によって除去されるからである。
ここで微分波形の発生過程について述べると、
① シャットルが飛走して受光面が暗くなり、光電電流が減少してトランジスタTr1がオフになると、F2点が電源のマイナスの電位に近くなる(マイナス方向に変化する。)。
② 一〇〇〇分の一五秒から三〇秒位の間、受光面の暗い状態が続く。その間、電源のGND(OV)側から抵抗R7、トランジスタTr2、コンデンサC1、抵抗R1と電流が流れて、コンデンサC1の両端電圧は約一五V(電源電圧一五Vの値)になる。コンデンサC1のF2点側がマイナス一五V、F6点側はマイナス0.5V程度である。
③ その後、受光面が明るくなると(t2、x1等のタイミング)、F2点はマイナス一五Vから〇V近くまでプラス方向に変化する。コンデンサC1のF2点側もF2点の変化と同時にマイナス一五Vから〇V近くにまでプラス方向に変化する。それにつれて、コンデンサC1のF6点側もマイナス0.5Vからプラス一五V近くにまでプラス方向に押し上げられる(トランジスタTr2はオフになる。)。その時点から、コンデンサC1に充電されていた電荷は、抵抗R1とR2を通じて放電を開始する。
④ 放電するにつれて、コンデンサC1の両端電圧は徐々に低くなる。したがって、F6点の電位は、プラス一五V近くからマイナス0.5V近くまで徐々に復帰する(トランジスタTr2は、動作状態を回復する。)。その時間的経過が第六図F6点の波形であり、この波形が本件発明にいう微分波形の一つである。
(5) トランジスタTr2は、抵抗R2によってベース電流が流れている(GND―R7―Tr2―R2―VCC)ため常時オンであるが、F6点におけるプラス方向(受光面の光の暗から明への変化時)の微分信号、すなわち、x1、t2によりオフとなる。このオフの状態は、その後F2点の電位に変化がなければ微分回路のコンデンサC1(=0.1μF)と抵抗R1+R2(=二〇〇KΩ+九KΩ)で決定される時定数である約一〇〇〇分の一四(0.1F×209KΩ×0.7×0.001)秒間持続する。
トランジスタTr2の出力(F4点)は、ゲート回路のトランジスタTr3の入力端子(ベース)に結合されているから、トランジスタTr2が右のとおり約一〇〇〇分の一四秒間オフになると、その同じ時間、トランジスタTr3はオンになる。つまり、微分回路のコンデンサC1、抵抗R1、R2とトランジスタTr2で構成する信号幅延長回路によって、電流変化という信号を一定時間だけ(約一〇〇〇分の一四秒)延長記憶して、その間ゲート用トランジスタTr3をオンにさせるものである。
ゲート回路のトランジスタTr3の動作時間中に、F2点にマイナス方向の電流変化(第六図B図においてX2のような受光面の光の明から暗への変化)があれば、F3点にはコンデンサC2を経て信号増幅用トランジスタTr4の動作用マイナス信号が発生し、Tr4がオンになる。また、同時にコンデンサC2は、主として抵抗R8、トランジスタTr4、抵抗R1を通じて充電を開始する(このとき、抵抗R4は抵抗R8に比べて非常に大きいので抵抗R4の電流はほとんど無視できる。)そして、徐々に充電が進むにつれて、F2点は、電源のマイナス電位まで復帰する。このように、F2点の復帰がコンデンサC2の働きによって緩やかであるから、F6点の電位のマイナス側への復帰も遅れ、ゲート回路のトランジスタTr3も遅れてオフとなる。
以上のように、コンデンサC1、抵抗R2、トランジスタTr2で微分回路と信号幅増幅回路を構成してゲート回路のトランジスタTr3を動作状態にし、さらにコンデンサC2の充電作用の効果で、右トランジスタTr3の動作状態を持続させてゲート回路の非動作状態への復帰を遅らせるという信号幅延長回路を含むゲート回路が動作する。
(6) ゲート回路のトランジスタTr3が一定時間動作すれば、トランジスタTr3と直列に結合するトランジスタTr4は、その間動作待機状態となる。
(7) ゲート回路のトランジスタTr3の動作時間中に、F2点にマイナス方向の電流変化(受光面の光の明から暗への変化)があれば、F3点にはコンデンサC2を経て信号増幅用トランジスタTr4の動作用マイナス信号が発生し、右Tr4がオンになる。この時点でトランジスタTr3とトランジスタTr4が同時にオンになり、F5点に制御用探知信号を得る。
なお、F型のゲート回路の動作時間幅は、F2点の波形の違いによって次の二種類になる。
① 第六図A図のF2点のように、受光面の光が暗から明に変化した後(t2以後)一〇〇〇分の一四秒以内に再び暗に変化することのない緯糸の十分あるシャットルの飛走する場合におけるゲート回路ゲートの動作時間は、t2からt3までの一〇〇〇分の一四秒である。
② 第六図B図のF2点のように、受光面の光が暗から明に変化した後(x1以後)一〇〇〇分の一四秒以内に再び暗から明に変化する緯糸の減少し、あるいは無くなったシャットルの飛走する場合におけるゲート回路の動作時間は、x1からt3までの時間である。ここでt3は、(x1からx2までの時間)+△tの時点である。△tは一〇〇〇分の一秒程度である。
(三) D型、F型の作用効果
D型、F型の作用は、
(1) シャットルが通過するごとに単一光電素子に発生する電流変化のうち、プラス方向の電流変化を微分回路で波形変換し、
(2) 右プラス方向の電流変化があったことを、コンデンサC、抵抗Rの充放電特性を利用して一定時間(D型は最大一〇〇〇分の一〇秒間、F型は最大一〇〇〇分の一四秒間)記憶して、その間ゲート回路を動作状態にし、
(3) ゲート回路が動作中に、増幅器にマイナス方向の電流変化があれば、この変化信号を増幅して制御用探知信号とする
ものであって、電流変化を利用したゲート回路によって構成された探知装置であるから、特別な同期装置を別に設ける必要もなく、また、単一光電素子を用いた透過光式であるため部品代も安価であり、反射面の汚れ、劣化等による誤動作もなく、安定した緯糸探知装置として機能する効果を有する。
6 本件発明の構成要件とイ号物件の構成との対比
(一) D型
(1) D型の構成と動作(5項(一)。以下「D型の構成」という。)(1)ないし(3)と本件発明の構成要件(3項(一))(1)ないし(3)とは同一である。
(2) D型の構成(4)は、シャットルの通過による電流変化を増幅したD2点の波形を微分回路で波形変換してD6点の波形を得るものであって、本件発明の構成(4)に該当する。
(3) D型の構成(5)は、D6点に入力したプラス方向の微分信号(その信号幅は約一〇〇〇分の三秒)により、ワンショットマルチ回路を起動し、同回路の動作継続時間中(約一〇〇〇分の一〇秒)ゲート回路のトランジスタTr4を作動させるものであって、本件発明の構成(5)に該当する。
(4) D型の構成(6)は、ゲート回路のトランジスタTr4の動作時間中、トランジスタTr4と直列に結合する増幅器トランジスタTr5が動作可能状態となるもので、本件発明の構成(6)に該当する。
(5) D型の構成(7)はゲート回路のトランジスタTr4の動作時間中にD2点にマイナス方向の電流変化があれば、トランジスタTr5がオンになり、D5点に制御用探知信号を得るものであって、本件発明の構成(7)に該当する。
(二) F型について
(1) F型の構成と動作(5項(二)。以下「F型の構成」という。)(1)ないし(3)と本件発明の構成(1)ないし(3)とは同一である。
(2) F型の構成(4)は、シャットルの通過による電流変化を微分回路で波形変換してF6点の波形を得るものであって、本件発明の構成(4)に該当する。
(3) F型の構成(5)は、F6点におけるプラス方向の微分信号によってゲート回路のトランジスタTr3がオンとなっている状態を、微分回路のコンデンサC1、抵抗R1、R2とトランジスタTr2で構成する信号幅延長回路で延長させるとともに、コンデンサC2の充電作用の効果でF6点の電位のマイナス方向への復帰を遅延させて同じくトランジスタTr3のオンの状態を持続させるものであって、本件発明の構成(5)に該当する。
(4) F型の構成(6)は、ゲート回路のトランジスタTr3が一定時間動作することによって、トランジスタTr3と直列に結合する増幅器トランジスタTr4を動作可能状態とするもので、本件発明の構成(6)に該当する。
(5) F型の構成(7)は、ゲート回路のトランジスタTr3の動作時間中にF2点にマイナス方向の電流変化(受光面の光の明から暗への変化)があれば、トランジスタTr4がオンになり、F5点に制御用探知信号を得るものであって、本件発明の構成(7)に該当する。
(三) 以上のとおり、D型、F型は、ともに本件発明の構成要件を具備しており、また、本件発明の作用効果は3項(三)記載のとおりであるところ、D型、F型の作用効果は、いずれもこれと同一であるから、イ号物件は、本件発明の技術的範囲に属するものである。
7(一) 被告は、本件特許出願公告の日である昭和四二年二月一六日から本件特許権の終了する昭和五七年二月一五日までの一五年間に、イ号物件を少なくとも三〇万台製造、販売し、原告の本件特許権を侵害した。
右販売価額は、当初は一台当たり三万八〇〇〇円位であったが、順次低額となり、右終了日ころは、一台当たり金二万円位であったので、右一五年間における被告の総販売価額は少なくとも六〇億円を下ることはない。
そして、被告は、右製造、販売によって、一台当たり販売価格に対する一〇パーセントの割合による利益を得ていたので、右一五年間に本件特許権侵害により少なくとも金六億円の利益を得た。
ところで、原告は、昭和三七年に本件発明をした後、直ちに特許出願をするとともに、これを実施するため、昭和三八年に訴外名古屋電子工業株式会社(以下「訴外会社」という。)を設立して(発行済株式総数の五〇パーセントを原告が所有)、自ら代表取締役に就任し、本件特許発明の実施品「ウエフトフィーラー」の製造、販売を始めた。しかるに、被告が昭和三九年ころからこれを模造し、イ号物件の製造、販売を始めたため、訴外会社はその分市場を失うとともに過当競争を余儀なくされ、遂に昭和五七年一一月倒産に追い込まれた。
このように、特許権者が自ら出資し、代表取締役に就任した株式会社において特許発明を実施した場合、特許権侵害に基づく損害額の算定については特許権者自らが実施したのと同様に考えて、特許法一〇二条一項の推定規定を適用すべきであり、原告は、被告が本件特許権の侵害行為によって得た利益額である金六億円を原告の損害として請求し得るものである。
(二) 仮に、右主張が認められないとしても、原告は、被告がした本件特許権の侵害行為に基づく損害賠償として実施料相当額を請求できる(特許法一〇二条二項)ところ、原告が本件発明を他人に実施させた場合の実施料率は、販売価額の三パーセントを下ることはない。そこで、右総販売価額金六〇億円の三パーセントの割合による実施料相当額を算出すると、金一億八〇〇〇万円となる。
8 よって、原告は、被告に対し、
(一) 不法行為による損害賠償請求権に基づき、
(1) 主位的には、特許法一〇二条一項により本件特許権侵害によって原告が受けた損害額と推定される金六億円のうち、一部請求として金一億八〇〇〇万円
(2) 仮に右主張が認められないとしても、予備的に原告の受けた損害額として前記実施料相当額金一億八〇〇〇万円
(二) (一)の請求と選択的に、被告は特許権者たる原告に対し通常支払うべき実施料の支払をすることなく原告の特許発明を実施したものであるから、法律上の原因なくして少なくとも前記実施料相当額金一億八〇〇〇万円の利益を得、反面原告は同額の損失を受けたので、不当利得返還請求権に基づき金一億八〇〇〇万円
及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日以降の日である昭和五七年二月一七日から右支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する被告の認否
1 請求原因1項の事実(原告が本件特許権者であること)は認める。
2 同2、3項の事実(本件発明の目的及び特徴)は否認ないし争う。
3 同4項の事実(被告のイ号物件の製造、販売)のうち、D型の回路ブロック図及び回路図がイ号物件目録添付第一及び第二図記載のとおりであり、F型のそれらが同第四及び第五図(ただし、第四及び第五図の「信号幅延長回路」は、「極性反転回路」というのが正しい。)記載のとおりであること、緯糸が減少し又は無くなった場合のF型の動作波形の一部分が同目録添付第七図記載のとおりであることは認めるが、F型のその余の部分及びD型の動作図(同目録添付第三)については否認する。
D型の動作波形は、別紙第九図記載のとおりである。
また、被告が本件特許権の出願公告前より昭和四二年初頭ころまでD型の製造、販売をしていたこと、そのころF型に切り換え、以後F型のみを製造、販売していることは認めるが、その販売台数は否認する。
4 同5項(イ号物件の特徴)、6項(本件発明の構成要件とイ号物件の構成との対比)の事実も否認ないし争う。
5 同7項の事実(原告の損害)のうち、(二)の原告が代表者をしていた訴外会社が本件発明の実施をしていたとの事実は不知。その余の事実は否認ないし争う。
6 同8項は争う。
三 被告の主張
1 本件発明の技術的範囲の解釈について
本件発明は、シャットルの全体がラムプの投光部(光路)を通過し終える瞬間(t2の時点)に織機停止用の制御信号を得る技術をその内容とするものに限定して解釈すべきである。その理由は、以下のとおりである。
(一) まず、本件発明の明細書中には、「この装置においては上記のように従来不要とした信号を選択信号としたものである。」(本件特許公報二欄三二行以下)と記載されているところ、ここでいう「従来不要とした信号」とは、「シャットルの通過による信号」(同二欄二七行)、すなわち、公報図面におけるt1及びt2を指し、本件発明がそのうちでt2を選択信号としたものであることは、その明細書の記載自体から明らかである。また、同明細書において開示されている唯一の実施例もt2を選択信号として用い、同信号に接続して制御信号を得るものであり、さらに、t2以外の時点で制御信号を発生させる技術思想は、右明細書のどこにも記載ないし示唆されていない。
(二) 次に、本件発明の出願及び登録の経過について検討するに、
(1) 本件特許出願当時の明細書における特許請求の範囲の記載は、次のとおりのものであった。
「シャットルの通路を介してラムプと相対して設置した単一光電素子よりなる通過光式緯糸探知装置において、シャットルの通過信号と、木管の貫孔を透過した光との複数の信号により緯糸の有無を探知することを特徴とする光電式緯糸探知装置」
右記載により明らかなように、本件発明は、「複数の信号」を前提とする発明であり、この「複数の信号」とは、原始明細書の記載によれば、次の二つの信号をいうのである。
① シャットルの通過信号
② 木管の貫孔を透過した光の信号
すなわち、①の信号はt1及びt2であり、②の信号はx1及びx2である。
したがって、①の信号と②の信号の二つの信号によって緯糸の有無を探知するということは①の信号のうちいずれか、及び②の信号のうちのいずれかを組み合わせ、その両者によって探知信号を得る技術を意味する。そして、出願当初の明細書において開示されていた実施例は、x1とt2を用いる場合であり、これが唯一の実施例であって、これ以外の実施例は示されていないから、原告の本件発明は、開示されたx1とt2を用いる技術についてのみ権利が主張できるにとどまると解すべきである。
(2) この点は、本件出願に対する拒絶査定についての原告の審判請求書において一層明確にされており、原告は、拒絶査定の理由中に示された公知技術と対比して、本件発明は、「従来のように緯糸の有無による透過光(つまり、x1からx2の間の信号)又は反射光を増幅して探知するものではなく、シャットルの通過により発生する信号全体の変化(つまり、t1、x1、x2及びt2の各信号)に着目して緯糸の有無を探知するものであるから、……従来装置とは全く異なる」と主張し、特許庁も、同審判請求に対する審決において、右主張を入れ、「本願の発明は、入力信号により一定時間解放されるゲート回路で緯糸の減少により生ずる次の入力信号(t2のこと)を制御信号として取り出す」点で前記公知技術とは異なっているとして本件特許権の登録を認めたのである。
(三) さらに、原告が本件発明について米国に出願した明細書には、冒頭に「―シャットルの貫孔を通過する光(信号)と、=シャットルの通過により光電素子が露出されることにより、光電素子への入力が暗から明に変わるとき(すなわち、t2の信号)」の二種類の信号を組み合わせることが明記され、この記載は、説明文中及び請求の範囲にも繰り返し明記されている。また、「この(従来)不要な信号を選択的又は作動的な信号」として利用すること、すなわち、公知技術と対比して、制御信号はt2の時点で発生することを明記している。
(四) 以上のとおり、本件発明は、シャットルが光路を通過し終える瞬間(t2の時点)に制御信号を得るものを対象としており、そのことが本件発明の必須の構成要件となることは、明細書の詳細な説明と図面及び出願の前記各経過等を参酌してみても明らかである。
2 以上検討した本件発明の技術的範囲の解釈に基づき、本件特許請求の範囲の記載を分説した上、本件発明の構成要件とイ号物件の構成とを対比すると、次のとおりである。(なお、被告は請求原因に対する被告の認否3項記載のとおり、原告の主張する期間(昭和四二年二月一六日から昭和五七年二月一五日)内にD型を製造、販売したことはないが、念のために、D型についても対比する。)
(一) 「シャットルの通路を介してラムプと相対して設置した単一光電素子よりなる透過光式緯糸探知装置において、」
これは、本件発明の前提をなす公知技術であり、イ号物件もこの点では共通する透過光式緯糸探知装置ではあるが、その構成及び作用効果が全く別異である。
(二) 「シャットルの通過により上記単一光電素子に発生する電流変化を微分回路等の波形変換回路に接続して得られる信号」
(1) 本件発明において、「シャットルの通過により」とあるのは、光路をシャットルがその先端から末端まで全部通過し終えることである。
しかるに、イ号物件においては、シャットルの全部が光路を通過することを要せず、単に貫孔部分のみが通過すればよいものである。
(2) 本件発明において、「波形変換回路に接続して得られる信号」というのは、公報第5図(A)、(B)に示したシャットルの貫孔が光路を通過し始める時点に生じるx1と、シャットルが通過し終える瞬間に生じるt2の二つの微分信号である。
しかるに、イ号物件の信号とは、シャットルの貫孔部分による光電素子の出力信号、すなわち、D型については別紙第九図のD型動作波形図(以下「第九図」という。)のD2点の中央部に示されるカーブをもったほぼ台形の波形信号、F型については、イ号物件目録添付第七図の動作図(以下「第七図」という。)のF1点に示されるカーブをもったほぼ台形の波形信号のそれぞれ一つだけを利用するものである。
したがって、イ号物件は、本件発明とはその構成、作用において全く別異である。
(三) 「によりワンショットマルチ回路等の信号幅延長回路を含むゲート回路により一定時間増幅器を動作可能状態となし、」
(1) 本件発明において、「信号幅延長回路を含むゲート回路」というのは、公報第2図符合8で示してある「ワンショットマルチ回路等の信号幅延長回路」であり、前記x1、t2の信号によって駆動されるものである。
しかるに、D型においては、ワンショットマルチ回路の入力信号としてD2点の波形信号自体を用いるものであり、微分回路等の波形変換回路を経た信号を用いるものではなく、本件発明とは構成、作用ともに大きく異なる。また、F型においては、ゲート回路の前段に「極性反転回路」を挿入、接続しているところ、これはx2の信号の極性を反転させて通過させることを目的とするものであるから、「信号幅延長回路」は使用していない。
(2) 本件発明における「一定時間増幅器を動作可能状態となし」という「一定時間」とは、公報第6図(A)、(B)に示したx1はt1から開始し、x1からt2までの時間より少し長くとった一定時間を示す波形を発生させることである。そして、この「一定時間の波形」によって、次の回路を動作可能状態にするのである。
しかるに、D型のワンショットマルチ回路は、第七図のD4点の波形に示すようにx1からt2までの一定時間増幅器を動作可能状態となすものではなく、x1時点からごくわずかの時間だけゲート回路の一方を動作状態にするために存在し、「一定時間」という要素も持っていない(ワンショットマルチ回路の出力波形D4点の波形は、x1点から出発するときと、t2点から出発するときとでは時間幅が異なっている。)。また、F型においては、第七図のF3点、F4点に示すように、一定時間増幅器を動作可能状態にするものではなく、別紙第八図のF型波形の要部の拡大図(以下「第八図」という。)に示すように、シャットルの貫孔部分による信号を利用して瞬間的に作動させるものである。したがって、この点においても、イ号物件は、本件発明と全く構成を異にする。
(四) 「この一定時間内に発生する電流変化により、制御信号を得るようにしたことを特徴とする光電式緯糸探知装置。」
(1) 「この一定時間」とは、(三)項(2)で述べた「一定時間」であり、「この一定時間内に発生する電流変化」というのは、1項で述べたとおり、公報第5図(B)に示すt2波形である。
しかるに、イ号物件においては、右「一定時間内に発生する電流変化」は存在しない。すなわち、まずD型においては、第九図に示したとおり、D4点の波形はx1から始まるときとt2から始まるときとでは時間幅が異なっていて、x1からごくわずかの時間だけゲート回路の一方がオンになっているところに、x1信号に引き続いて発生するx2信号の微分成分(D3点の波形のマイナス側)によりゲート回路の他方がオンになるために、D5点に制御信号を発生させるのである。また、F型においては、第八図に示したように、F4点の波形により動作する第一ゲートがオフになる直前の瞬間にF3点の第二ゲートが動作を開始して、両ゲート信号が交差して重なり合う短い瞬間だけF5点に動作信号を発生させるのである。
(2) 本件発明において、「制御信号を得るようにした」という制御信号とは、1項で述べたとおり、公報第7図(B)に示されたシャットルの通過終了の瞬間に生ずる微分信号t2に続いて発生する波形である。
しかるに、D型においては、D5点の制御信号はシャットルの貫孔が光電素子を通過する間(x1とx2の間)のわずかの時間に発生している。また、F型においても、第七図のF3点、F4点、F5点の信号波形を対照すれば明らかなように、シャットルの貫孔が光電素子を通過する間(x1とx2の間)のわずかの時間にF5点の制御信号を発生している。
以上のとおり、イ号物件は、本件発明とはその動作のシステム自体が異なり、その作用も全く別異である。
3 本件発明が実施不可能な欠陥発明であることについて
公報第2図に示されたゲート回路には、同第5図、第6図に示された信号が加わることになっていて、二つのプラスの入力信号があると出力信号が出るようになっているところ、明細書によれば、第5図(B)のt2の信号がプラスになり、他方、第6図(B)の信号もプラスになっているから制御信号が第7図(B)のように発生するように図示されている。しかし、第5図の信号と第6図の信号がともにプラスになれば制御信号が発生するというのであれば、それ以前に第5図(A)、第6図(A)のt2の時点、第5図(B)、第6図(B)のx1の時点でも双方プラスになるのであるから、この時点で制御信号が発生する筈である(実際にも、第一回目の原告技術説明会のときに、原告作成の実施品はそうなってしまった。)。しかも、本件明細書には、この誤動作を避ける手段は示されていないのである。
右のような欠陥発明においては、権利範囲につき限定解釈をすることこそ当然であって、原告主張のような拡大解釈が許される余地はない。そして、もしこのように誤動作してしまう装置が本件特許権の対象と解するのであれば、イ号物件は現に誤動作することなく実用に供されているのであるからこれに当たらないこととなるし、もし、本件権利を誤動作を防止する装置をさらに付加したものと解するならば、イ号物件にはそのような装置は付加されていないから、これにも当たらないのである。
4 消滅時効の抗弁について
(一) 原告は、昭和四二年ころから被告に対し、D型、F型の製品が本件特許権を侵害すものであると主張してきたところ、昭和五三年一月三一日、被告に対して特許権侵害(不法行為)を理由とする損害賠償として金三三七万五〇〇〇円及びそれに対する右支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払を求めて本訴を提起していたが、昭和五九年四月一一日に至って、その請求を拡張し、請求の趣旨記載の請求をなしたものである。
(二) しかしながら、不法行為に基づく原告の請求のうち右請求拡張の日の三年前である昭和五六年四月一二日より前に発生した損害については、時効により消滅しているので、被告は、右時効を援用する。
また、不当利得に基づく原告の請求のうち同じく右請求拡張の日の一〇年前である昭和四十九年四月一二日より前に発生した利得については、時効により消滅しているので、被告は、右時効も援用する。
四 被告の主張に対する原告の認否及び反論
1 請求原因に対する被告の主張1項の、本件発明がt2の時点に制御信号を得る技術を内容とするものと解釈すべきであるとの主張は争う。本件発明は、t2を選択信号、すなわち、ゲート回路を開く起動信号として用いるものである。
(一) 同項(一)の事実のうち、本件発明の明細書に被告主張の記載があること、シャットルの通過による信号のうち従来不要としたのはt1とt2の信号であるが、明細書において開示されている実施例はt2を選択信号として用いているものであることはそれぞれ認めるが、明細書にt2以外の時点で制御信号を発生させる技術思想が記載ないし示唆されていないとする点は争う。
(二) 同項(二)、(三)の事実は明らかに争わない。
(三) 同項(四)の主張は争う
本件発明は、シャットルの通過により光電素子に発生する信号のうち、従来不要であった後端信号t2を選択信号とし、その時点でゲートを開くようにした結果、緯糸が無くなったときには、従来の調整困難な同期装置を用いなくともt2と同じく暗から明に変わるときの信号であるx1が選択信号となってゲート回路が開かれ、増幅器が一定時間動作可能状態となるようにしたものである。本件公報の実施例においては、右一定時間内に生じた暗から明に変わるときの信号t2を制御信号としたものであるが、本件発明の技術内容としてはこれに限られるものではなく、イ号物件のように、制御信号として明から暗に変わるときの信号であるx2を用いてもよく、そのどちらを採用するかはもっぱら技術的問題であるのであって本件発明は、「一定時間内に発生する電流変化」である限り、そのどちらをも権利範囲とするものである。
2 (一) 同2項(一)のうち、イ号物件と本件発明が、共通点を有する透過光式緯糸探知装置である事実は認め、その余の事実及び主張は否認ないし争う。
(二) (1) 同項(二)(1)の事実は認める。
(2) 同項(二)(2)のうち、本件発明において、「波形変換回路に接続して得られる信号」というのがx1とt2の各時点に生じる信号であることは認めるが、イ号物件が一つの信号のみを利用しているとの事実は否認し、その余の主張は争う。
(三) (1) 同項(三)(1)のうち、本件発明において、「信号幅延長回路を含むゲート回路」が、x1、t2の信号によって駆動されることは認め、その余の事実及び主張は否認ないし争う。
(2) 同項(三)(2)の事実及び主張は否認ないし争う。
特に、本件発明における「一定時間」とは、被告主張のように、x1またはt1から開始し、x1からt2までの時間より少し長く取った一定時間に限られるものではない。そして、イ号物件は、同物件目録添付第三図及び第六図の動作図から明らかなように、本件発明と同様t2を選択信号とし、緯糸が無くなったときにはt2と同じく暗から明に変わるときの信号であるx1を選択信号とし、ゲート回路を一定時間動作可能状態とするものであって、本件発明の構成を充足している。
(四) 同項(四)の事実及び主張も否認ないし争う。
イ号物件は、x1の信号によって、一定時間(もっとも、F型においては、制御信号x1を検出した直後にゲート回路が解消されるようになっている。)ゲート回路を動作可能状態とし、この一定時間内に発生する電流変化であるx2により制御信号を得るものであって、本件発明の構成を充足している。
3 同3項の事実及び主張は否認ないし争う。
4(一) 同4項(一)の事実は認める。
(二) 同項(二)は否認ないし争う。すなわち、
(1) 継続的不法行為においては、鉱業法一一五条二項を準用して、その侵害行為を中止したときに時効期間の進行が開始すると解すべきである。
被告の本件特許侵害に基づく不法行為は、本件訴え提起時点より本件特許権の効力が消滅した昭和五七年二月一五日まで変わらず継続しているのであるから、その時点まで、時効期間は進行していない。
(2) 被告は、イ号物件の製造、販売によって本件特許を侵害する違法行為をしたものであり、被告は、右侵害物件を被告から買い受けて使用するユーザーに対してその使用を止めさせ、あるいは侵害物件を回収すべき義務を負っている。したがって、右ユーザーが右侵害物件を使用している間は、被告会社は、その使用の差止めあるいは回収を怠るという不作為の不法行為を継続しているものと解することができる。
そうすると、被告は、本件特許権の効力が消滅した昭和五七年二月一五日まで引き続き不法行為を継続してきたのであるから、その時点まで、時効期間は進行していない。
五 原告の再反論
原告は、昭和五三年一月三一日本訴を提起し、本件特許権の侵害に基づく損害賠償請求債権が訴訟物とされ、原告は、訴訟の係属中はいつでも請求の拡張という方法で残部の請求全部につき容易に判決を求めることができる状態に置かれてきた(請求の潜在的訴訟係属)。これは、民法の「裁判上の請求に準ずべきもの」とみなし得るので、右本訴提起によって、請求の拡張部分も含めた請求の全額について、時効が中断している。
六 原告の再反論に対する被告の認否
原告の再反論は否認ないし争う。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因1項の事実(原告が本件特許権者であること)並びに同4項のうち、イ号物件がイ号物件目録添付第一、第二、第四及び第五図の回路ブロック図及び回路図記載のとおりの構造を有していること(ただし、第四図及び第五図の「信号幅延長回路」の名称については除く。)、F型の緯糸が減少ないし無くなった場合の動作波形の一部が同目録添付第七図記載のとおりであること、被告が昭和四二年二月一六日以降同五七年二月一五日までの間にイ号物件を製造、販売したこと(ただし、昭和四四年以降はF型。それ以前に被告が製造、販売していた機種については争いがある。)は、いずれも当事者間に争いがない。
そして、成立について争いのない甲第一号証(本件特許公報)によれば、請求原因2項(本件発明の目的)、同3項(一)(構成要件(本件発明の構成上の特徴))及び同項(三)(本件発明の作用効果)の各事実を、また、同じく成立に争いのない甲第五号証及び被告代表者本人尋問の結果によって成立の認められる乙第一一号証並びに同尋問の結果によれば、F型の同目録添付第七図記載部分(緯糸が無い場合の同目録第六図B図におけるおよそx1からt3のF1ないしF5点の波形と認められる。)を除く緯糸の減少したときの動作波形及び緯糸の十分あるときの動作波形がそれぞれほぼ同目録添付第六図(なお、同図面のF3点は、トランジスタTr4の動作に必要な波形のみを示し、上向きの波形は省略して記載してある。)記載のとおりであることが、それぞれ認められる。
さらに、D型の動作波形については、原告は同目録添付第三図記載の動作図(なお、同図面においても、そのD3点はトランジスタTr5の動作に必要な波形のみを示し、上向きの波形は省略して記載してある。)を、また、被告は別紙第九図記載の動作波形図をそれぞれ主張しているところ、右各主張の波形図を対比すると、被告の主張する波形は、原告のそれに比べてD2点及びD3点の波形の立上がり及び立下がりの各動作が遅延している点に差異が認められるので、この点について検討するに、前掲乙第一一号証及び被告代表者本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、D型の受光素子にある程度の面積があり、それに対して光が当たる面積がシャットルの通過に従って徐々に増大し、また、減少していくことから、電気信号も徐々に増大し、また、減少すること、及び回路に組み込まれたコンデンサ及び抵抗等の働きによって、入力された信号に対するD型の回路の動作はある程度遅延することがそれぞれ認められるのであって、右認定事実によれば、実際のD型の波形は、被告の主張する別紙第九図のような動作波形となることが推認できる。もっとも、前掲各証拠によれば、D型の回路は、理論的には原告主張のような動作をするものであって、実際の動きとは多少異なるものの、原告主張の波形図のような動きをしても実用に際してなんら不都合はないことも認められるので、以下の検討にあたっては、便宜上原告の主張する動作図(イ号物件目録添付第三図)を基にして考察することとする。
二1 そこでまず、本件発明の技術内容について見るに、前掲甲第一号証及び被告代表者本人尋問の結果によれば、本件発明は、運転中の自動織機で使用している緯糸の減少を一個の光電素子を用いて探知する光電式緯糸探知装置において、シャットル内の木管トングに巻かれた緯糸が減少すると右木管トングに設けられた貫孔を通してラムプの光が光電素子に到達し、右光電素子に発生する電流変化の信号によって織機を制御する透過光式の装置に関する発明であるが、緯糸の減少したシャットルが通過したときに発生する電流変化は、飛走するシャットルの先端が光電素子に到達するラムプの光を遮るt1点、貫孔を通して光が光電素子に到達するx1点、貫孔が光電素子の位置を通過することによって再び光が遮られるx2点及びシャットルが通過して光が光電素子に到達すようになるt2点の四点において発生するものであることが認められる。そして、被告はこの点に関して、本件発明はシャットルの全体がラムプの投光部(光路)を通過し終える瞬間であるt2点において織機停止用の制御信号を得る技術をその内容とするものと解釈すべき旨主張している(被告の主張1項)ので、以下この点について検討する。
2 前記当事者間に争いのない請求原因1項のうちの本件特許請求の範囲の記載によれば、本件発明の技術内容は、①「シャットルの通過により、……光電素子に発生する電流変化……(による)信号」により一定時間増幅器を動作可能状態とした上、②「この一定時間内に発生する電流変化により制御信号を得る」ものであって、本件発明の目的たる緯糸の無くなったシャットルを探知するため、右①、②の二個の電流変化による信号を用いるものであると解される。そして、前掲甲第一号証の本件特許公報の「発明の詳細な説明」中には、公報図面の説明として、「従来の透過(光)式においてはこの信号を消去するため機械的シャッター、電気的スイッチ、光学的フィルター等の補助制御機構を必要としたのであるがこの装置においては上記のように従来不要とした信号を選択信号としたものである。」(本件公報二欄二九行目から三四行目まで)との記載があり、従来技術との相違点を強調したこの記載は、発明の新規性を基礎づける最も重要な根拠と解されるから、単に一実施例の説明にとどまらず、本件発明の要件を具体的に説明したものと解するのが相当である。
ところで、前記①、②の電流変化による信号とは、本件発明の前掲である透過光式の緯糸探知装置においては、前記認定のとおり、公報図面のt1、x1、x2、t2の各点における四個の信号のみが考えられるところ、従来不要とした「この信号」が右四個の信号のうちどれを指すものであるのかを考えるに、「発明の詳細な説明」中の前記引用部分の前段に記載された実施例においては、公報第5図(A)が引用されていることから明らかなように、t2を指すことは文理上疑問の余地がないが、理論的には従来の透過光式の光電式緯糸探知装置は、前記認定のとおり緯糸が減少したときに貫孔から透過する光による電流変化(すなわち、x1、x2)を利用して制御信号を得るものであるから、それ以外のt1、t2双方の電流変化による信号が「従来不要とした信号」に該当するものと認められ、このことは原告の自認する(被告の主張に対する原告の認否及び反論1項(一))ところとも一致する。
さらに、前記引用部分に記載された「選択信号」の用いられ方についても考察するに、この点については、本件公報中のどこにも直接説明した記載がないから、本件公報の他の記載から明らかにするほかないところ、本件公報の実施例において選択信号とされているt2のパルスは、緯糸の有るときはゲート回路8を開いて増幅器9を一定時間動作可能状態となすものの、右一定時間内に制御装置を起動する第二のパルスが予定されていないのでこの働きは緯糸の減少を探知するためにはなんら有益でないものであって、t2が選択信号として意味を持つのは、緯糸が減少したときに制御装置を起動して織機を制御する、いわゆる、制御信号を得るための前記②の信号として用いられる場合であることが明らかである(なお、理論上は、t1によって増幅器を一定時間動作可能状態にする構成(後のx1又はx2により制御装置を起動する。)も十分に可能である。)。
以上の考察を総合すれば、本件発明は、「従来不要とした信号」であるt1あるいはt2を、制御信号を得るために有益かつ必須の信号として用いることを構成要件とするものと認めることができる。そして、右のような本件発明の構成要件の解釈は、本件特許の登録に至る過程で原告自身が主張していたところにも沿うものであって、本訴において右と異なる解釈を主張することは許されないものである(包袋禁反言)。すなわち、成立について争いのない乙第三号証によれば、原告は、本件特許の拒絶査定に対する審判請求書において、特許庁に対し、拒絶査定の理由中に引用された公知技術と対比して、本件発明は、「従来のように緯糸の有無による透過光又は反射光を増幅して探知するものではなく、シャットルの通過により発生する信号全体の変化に着目して緯糸の有無を探知するものであるから……従来装置とは全く異なる」と主張していることが認められるところ、原告は、右の主張において、本件特許が従来技術のように緯糸の有無による透過光(前記認定した本件発明の技術内容から、x1からx2の間の信号を指すものと解される。)ではなく、シャットルの通過により発生する信号全体の変化(同じく、x1、x2のみならず、t1、t2も含めた信号を指すものと解される。)に着目して緯糸の有無を探知するものであることを強調し、この点において従来技術と異なる新規性が存するとしているのであるから、本件発明がx1とx2のみの信号(緯糸の有無による透過光による信号)によって緯糸の有無を探知する技術内容を含まない旨明示していると解されるのである。
3 以上の次第であって、x1に続く電流変化としてx2を用いることをも本件発明の権利範囲内であるかのごとき原告の主張(請求原因3項(二)(5)、(6)及び被告の主張に対する原告の認否及び反論1項(三))は採用することができない。
三そこで次に、イ号物件が本件発明の構成要件を満たしているか否かについて検討するに、一項で検討したところに従って、イ号物件の動作波形を、D型についてはイ号物件目録添付第三図により、また、F型については同目録第六図及び第七図によって見るに、D型における制御信号であるD5点及びF型における制御信号であるF5点の各動作波形は、いずれもx2の電流変化に接続して発生しており、イ号物件は、従来不要としたt1あるいはt2のいずれの信号も制御信号として用いていないことが明らかである。
この点に関し、原告は、イ号物件も本件発明と同様t2を選択信号とし、緯糸が無くなったときにはt2と同じ性質を有するx1が選択信号となってゲート回路が開かれるものであって、イ号物件は本件発明の権利範囲に属すると主張する(被告の主張2項(三)(2)に対する原告の認否及び反論)。原告の右主張の趣旨は必らずしも明らかではないが、イ号物件もt2によって一定時間ゲート回路を動作可能状態にしていることから、緯糸が無くなったとき、t2と同じく受光面が暗から明に変わるときの信号であるx1によってゲート回路を動作可能状態としているのであって、右によれば、イ号物件もt2を選択信号としているといえる旨の主張をしているものと解される。そこで、原告の右内容の主張の当否について検討するに、前記イ号物件の動作波形によれば、なるほどイ号物件は、t2の信号によって一時ゲート回路が開かれることが明らかであるが、右はt2点で一たん開かれて増幅器を動作可能状態にしたゲート回路は、次の入力信号によって制御信号が得られる前に閉じられ、結局、t2に接続して発生する信号においてイ号物件の目的たる織機の制御信号を得ることはないことも認められるのである。そして、右のようにt2によってゲート回路が開かれたとしても、それがなんら緯糸探知の用に供されないとするならば、それをもってt2の信号を用いているということができないことは当然であって、ましてや原告の右主張によっても、イ号物件はt2と同じ性質を有するx1が選択信号としてゲート回路を動作可能状態にするというにすぎないのであるから、イ号物件がt2信号を用いているといえないことは明白である。
四以上の次第であって、本件発明は、t2の信号を制御信号を得るための信号として用いることをその構成要件とするところ、イ号物件はt2の信号を右信号として用いるものではないから、その余の点について判断するまでもなく、イ号物件が本件特許の権利範囲に属さないことは明らかである。
五よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官浦野雄幸 裁判官加藤幸雄 裁判官森脇淳一は転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官浦野雄幸)
別紙<省略>